お米、野菜、魚、木材――。私たちの食卓や暮らしを支える「自然の恵み」を守り育てているのが「農林水産省(のうりんすいさんしょう)」です。略して「農水省(のうすいしょう)」とも呼ばれます。
農林水産省は、食料の安定供給をはじめ、農業・林業・漁業の発展、そして地域の自然と文化を次の世代へ引き継ぐ役割を担っています。
農林水産省の成り立ち
農水省は、戦後まもなく設立された「農林省」が母体で、1978年に「農林水産省」として現在の形になりました。日本の自然資源を守りながら、食と環境のバランスを保つ政策を進めています。
「食べものをつくる」と「自然を守る」は表裏一体。農水省はその両方を支える省庁です。
主な仕事
① 食料の安定供給
日本の食料自給率を高めること、そして安全で安心な食を確保することが農水省の基本方針です。災害や輸入トラブルがあっても、国民が困らないよう備蓄や流通体制を整えています。
食料の確保は「経済」ではなく「安全保障」の一部。農水省は“食の守り手”でもあります。
② 農業の振興
農家の経営支援や後継者育成、スマート農業(ICT・AIを使った効率的な農業)の推進などを行っています。環境にやさしい農業の実現も重要なテーマです。
③ 林業・森林保全
木材の生産や森林管理を通じて、資源の循環利用を進めています。森林は二酸化炭素を吸収し、地球温暖化対策にも貢献しています。
森林は「天然のダム」。水を蓄え、土砂災害を防ぐ役割もあります。
④ 水産業の振興と海の保全
漁業資源を守りながら、持続的に魚を獲る仕組みを整えています。海洋汚染や気候変動への対策も課題のひとつです。
過剰な漁獲は、海のバランスを崩す原因に。農水省は“とる”よりも“育てる漁業”を目指しています。
食の安全と消費者の信頼
農水省は、食品の安全を確保するために、農薬や添加物の基準を設けています。また、産地表示やトレーサビリティ(生産履歴の追跡)を整備し、安心して食べられる環境をつくっています。
「どこで・誰が・どうつくったか」がわかる食は、信頼の証。農水省の地道なルールづくりが支えています。
農村と地域の未来
地方の多くでは、農林水産業が地域経済の中心です。農水省は、農村の活性化や地域ブランドづくり、観光と農業を組み合わせた「グリーン・ツーリズム」なども支援しています。
また、女性や若者の参入を促す政策にも力を入れています。新しい働き方としての「半農半X(はんのうはんえっくす)」――農業と別の仕事を両立するライフスタイルも注目されています。
農村は“食の現場”であると同時に、“地域の文化”を育む場所。農水省はその両方を守ろうとしています。
国際協力と食料安全保障
農水省は、国際的にも「食料・農業分野のSDGs推進」に取り組んでいます。途上国への技術支援や、気候変動に強い作物の研究などを通じて、世界の食を支えています。
日本の農業技術(精密機械・灌漑技術など)は、海外でも高く評価されています。農水省はその橋渡し役です。
農林水産省が抱える課題
少子高齢化による担い手不足、農村の過疎化、気候変動による不作――。農水省の前には多くの課題が立ちはだかっています。
日本の食料自給率は約38%(2025年現在)。輸入に頼りすぎる構造からの脱却が急務です。
また、地球規模では食料危機が懸念されており、「環境に優しい農業」と「生産性の向上」をどう両立させるかが問われています。
まとめ
農林水産省は、“食と自然の守り手”。農業・林業・漁業を支えるだけでなく、地域社会と環境の未来を見据えた政策を進めています。
次回は、「内閣府」。政府全体の司令塔として、各省庁をまとめる“調整役”の役割を見ていきましょう。