はじめに
コンビニのレジ横、カフェの求人チラシ、バイトアプリの画面。どこを見ても「時給◯◯円〜」という数字が並んでいます。その“下限ライン”を決めているのが、最低賃金です。
でも、「この金額ってどうやって決まってるの?」「誰が決めてるの?」そう思ったことはありませんか?このシリーズでは、私たちの暮らしに直結する「最低賃金」の仕組みを、3回に分けてやさしく紐といていきます。
「最低賃金」って、なんのためにあるの?
最低賃金とは、どんなに小さな会社でも、働く人に支払わなければならない賃金の最低ライン。日本では「最低賃金法」という法律で定められています。
もし企業がこの金額を下回る時給で人を働かせると、法律違反になります。つまり、最低賃金は――
「安すぎる給料で働かされる人を守るための“最後の砦”」
といえる制度なのです。
どこで、どう決まるの?
最低賃金は、国が一方的に決めているわけではありません。毎年、「中央最低賃金審議会」という場所で、労働者の代表・企業の代表・大学教授などの専門家が集まって話し合いを行います。
審議会では、働く人・企業・中立的な立場の専門家が三者構成で話し合う。
この話し合いの結果をもとに、都道府県ごとに設けられた「地方最低賃金審議会」で地域の物価や雇用状況などを踏まえた“最終金額”を決めていく――つまり、「国が方向を示し、地域が最終判断を下す」二段階のプロセスで決まるのです。
都道府県で違うのはなぜ?
ニュースを見ると、「東京は1,113円」「沖縄は896円」など、地域で差があります。これを「地域別最低賃金」と呼びます。
東京や神奈川のように生活コストが高い地域では高く、物価や家賃が比較的安い地域では低めになる傾向があります。そのため、地域ごとの経済差が“最低賃金の差”として表れているのです。
最低賃金は「全国一律」ではない。地域ごとの生活コストと企業の支払い能力を考慮して決められる。
どんな人に関係あるの?
「バイトの人向けの制度でしょ?」と思うかもしれませんが、実はすべての働く人に関係します。正社員もパートも、派遣も。「時間あたりの給料」が最低賃金を下回っていないかを基準に判断されます。
たとえば、月給制の人でも、月給を労働時間で割った結果が最低賃金を下回っていれば違法です。
「最低」だけど「基準」になる
最低賃金は、社会全体の賃金水準の“基準点”でもあります。このラインが上がると、「他の給与も少しずつ上がっていく」――そんな連鎖が起きやすくなります。
一方で、上げすぎると中小企業の負担が増えるという側面も。そのため、引き上げのスピードをめぐって毎年議論が行われています。
最低賃金の引き上げは「働く人の生活を守る」一方で、企業の経営を圧迫するリスクもある。だからこそ慎重な調整が必要。
歴史を少しだけ
日本で最低賃金法ができたのは1968年。当時は「働いても生活できない人をなくす」ことが目的でした。
当初は地域によって金額差が大きく、物価上昇に追いつかない時期もありましたが、近年は「全国平均1,000円」を目標に、国全体で引き上げが続いています。
実際の数字を見てみよう(2024年度)
| 地域 | 最低賃金(時給) |
|---|---|
| 東京 | 1,113円 |
| 神奈川 | 1,112円 |
| 大阪 | 1,064円 |
| 沖縄 | 896円 |
最高と最低の差は200円以上。同じ仕事をしていても、住む地域で収入差が生まれるという現実があります。
私たちの暮らしとのつながり
最低賃金が上がると、アルバイトやパートの時給が上がるだけでなく、社会全体の“給料の底上げ”につながります。ただし、それに伴って物価やサービス料金が上がる場合も。つまり、最低賃金は「お金の話」だけでなく、社会の循環の中でバランスを取る制度なのです。
最低賃金を「自分ごと」に
私たちは普段、「時給◯◯円」という数字を当たり前に見ています。でもその数字の裏には、何十人もの専門家が重ねた議論や、働く人の生活を守るための努力があります。
「決められた金額」として受け取るのではなく、「どんな思いでこの数字が作られているのか」を知ること。それが、“政治をとなりの話題にする”第一歩です。
次回予告
次回は、「どうやって金額が決まるの?」をテーマに、審議会の舞台裏と、毎年の“攻防”を見ていきます。引き上げる側と抑える側、それぞれの思惑とは――?